潜在意識を活用してどん底から這い上がろう
本記事では、渡部昇一さんが「不運な状況からの立ち上がり方」というテーマで書いたコラムを紹介します。
まずため息をやめることから始めよう
この原稿を書いている時点で未曾有の大震災(東日本大震災)から半年近くが経過しています。
しかし、今後我が国がどのように復興してくのか、まだまだ暗中模索の中にあると言えます。
思えば我が国は世界有数の地震大国であり、歴史的に見てもこれまで何度も震災に見舞われてきました。
そして、その都度再建を果たしてきたわけです。
ただ今回の震災がこれまでと大きく異なっているのは、震災に伴う原発事故の問題が長期化を避けられず、政治も混乱を極めていること。
このような状況の下では、被災者であっても個人が国に頼ることは難しいと言わざるを得ません。
国に頼れる時もそうでない場合も、私たちは自分の生活をただ粛々と続けていく他ないのだと思います。
起きてしまった現実を受け止めこれからどう生きていくかは、国が決めることではなく結局は自分自身なのですから。
そして、今こそ潜在意識の無限の「知」と「力」を活用していただきたいと思います。
それにはまずため息を止めることから始めましょう。
こういう時ですから、「どうせダメだろう」という否定的な感情が生まれやすいため、つい「はぁ・・・」と、言ってしまうものなのかもしれません。
しかしながらため息をつくと、その奥にあるマイナスの言葉が潜在意識に刷り込まれ、自ら幸福を遠ざけてしまうことになるのです。
ため息を止めるだけでも負の出来事をずいぶん遠ざけることができるのです。
国家の敗北とは個人の予測を超えたこと
そのことを踏まえた上で、是非本多静六という日本の林学博士の生きざまを参考にしてみてください。
これは私自身も、「もしも」に備えた心づもりとして、折に触れ潜在意識に送り込むようにしているものです。
本多先生は1952年に亡くなられていますが、極貧のうちから身を起こし東京大学の教授となる傍ら、東京・日比谷公園を始め、全国各地の50か所以上もの公園を設計・改良に携わり、日本の「公園の父」と呼ばれる偉人です。
その一方で蓄財の才覚者でもあり、巨万の富を築いたことでも知られています。
東大を定年で退官される頃には、現在の貨幣価値に換算して数十億円もの大金を公共の教育機関などに匿名で寄付されました。
お子さんもいらっしゃいましたが、「子供たちには立派な教育を受けさせたのだから、財産を残す必要はない」と、ほとんどの資産を寄付されてしまったのです。
手元に残したのは、自分たちの夫婦の老後に必要な生活費として配当金の出る2つの株式のみでした。
しかし、時は戦争中のこと。
やがて敗戦すると、日本の状況は一変しました。
本多先生の所有する株式は当時最高の優良株とされていた南満州鉄道と日本で唯一の為替銀行であった横浜正金銀行(三菱東京UFJ銀行の前身)でしたが、敗戦によっていずれの株券も紙くずと化してしまったのです。
この時本多先生は、すでに80歳を目前にしていました。
全財産を失ったわけですから、普通なら恨み言の1つや2つ、口をついて出ても仕方ないでしょう。
しかし本多先生は違いました。
不運を恨むことなく、「国家が敗北するのは、個人の不足を超えたことである。ジタバタしても仕方がない」と考え、すぐに著述を取り掛かられたのです。
天を恨んでも何も変わらない
こうして本多先生が傘寿を迎える頃に書き上げた「私の財産告白」(実業之日本社)は、ベストセラーとして話題を呼びました。
その後も数々の名著を上梓され、80歳を過ぎてから再び寄付を始められるほどのお金持ちになられたのです。
本多先生のこの心がけこそ、今の日本人に最も必要なことではないでしょうか。
人間は生きていれば、いつどんな不幸に見舞われるか分かりません。
どんなに立派な生き方をしていても、それは同じです。
自らの非による不運なら、「自分が悪かった」と諦めることもできるでしょう。
ですがそうでない試練に直面したとして、天を恨んでも起きたことは何も変わらないのです。
それならば、一刻も早く気を取り直して自分のできることから始めるしかありません。
それが粛々と生活を続けるということであり、前を向いて良いことを考える他ないわけです。
私も東北の出身であり、今回被災された人達のお気持ちを考えると胸が痛んでなりません。
それでも尚、ここで立ち止まることなく勇気を出してもう一度夢を持って力強く一歩を踏み出していただきたい。
それが、志半ばで逝った人達に対する礼儀ではないでしょうか。
無限の力を持つ潜在意識は、前向きな夢を持つ人の願望を叶えてくれます。
それを信じてこの難局を乗り越えましょう。
本多先生が全財産を失った敗戦当時を振り返ってみると、日本全体が焼け野原の状態でした。
満足に食べ物がなく、病死や餓死する子供たちも大勢いました。
戦後この国は立ち上がり、そして人々は夢を抱きそれを実現し、見事な復興を遂げました。
きっと今回もこれまでと同じように必ず成功を収めることができるはずです。
私はそう信じています。
年齢や性別、置かれた境遇によって夢を諦める必要など全くありません。
本多先生を見てください。
80歳という年齢でゼロからスタートし、成功されたではありませんか。
ため息を捨て明るい夢を抱いて前に進む人には、必ず潜在意識が味方してくれるのです。